贈与に関する税制改正の動向
個人資産税部門 阿久津 貴典
2. 現行制度において生前贈与を行った場合の相続税
上記二つの贈与税の計算方法について、贈与者が亡くなった際、相続税の計算においては、以下の財産を相続財産に加算することになります。
相続財産に加算することとなる贈与財産は、相続時でなく、贈与時の時価で計算します。
相続財産に加算することとなる贈与財産に、既に贈与税が課税されている場合には、相続の際、支払った贈与税を相続税から控除することで二重課税を回避しています。
3. 相続税・贈与税一体化への改正検討のきっかけ
暦年課税の場合は、相続開始の3年より前に贈与された財産は相続税の課税対象となりません。これを利用し、以下のような相続税の節税策が一般的に行われています。
①贈与税が課税されない基礎控除額110万円以下の財産を毎年贈与して相続財産を小さくする。
②富裕層を中心に、相続税率と贈与税率の差を利用して、贈与税率の方が低い範囲の財産を毎年贈与し、相続財産を小さくする。
上述のような、贈与税と相続税の負担の差を少なくするために、今後相続税と贈与税の一体化への検討が始まる見込みです。
4. 今後の税制改正の動向の検討
将来的に税制改正が行われた場合、以下のような内容が織り込まれる可能性もあります。(あくまで現段階での予測)
①生前贈与については、すべての贈与財産を相続税の課税対象とする等、暦年課税の減少・廃止の方向に進む。
②暦年課税において、相続税の課税対象となる贈与財産の範囲を、相続開始前3年以内でなく、5年、10年以内の贈与等と大きくする。
5. 税制改正に向けての現時点の対応策
そもそも、上述のような税制改正が行われるのか、また、いつ改正がされるのかについては現時点では不明ですが、中長期的には贈与による財産移転と相続による財産移転のコストは中立的になっていくものと推測されます。税制改正は、時期を遡って納税者不利となる改正は行わないことが一般的です。税制改正の動向を確認しながら、今のうちに暦年課税による贈与を行い、相続財産を小さくしておくという対応も考えられます。
執筆者紹介
個人資産税部門 阿久津 貴典
相続税申告のほか、相続対策や事業承継など、個人資産税業務に従事しています。