平成27年8月 第2号
「小規模宅地等の特例」シリーズ7 小規模宅地の特例の活用は遺産分割協議が鍵
個人資産税部門 吉濱 康倫
1月号から7月号まで6回にわたって小規模宅地の特例について解説してきましたが、本号では、小規模宅地の特例を上手に活用することにより相続税額をゼロにすることができる事例をご紹介致します。
平成27年1月より、基礎控除額がこれまでの6割に縮小されたことから改正前までは基礎控除額の範囲に収まり申告が不要であった事例においても課税が発生する場合があります。例えば「都内に戸建て住宅を所有し、金融資産2,000万円、借入金なし」といった典型的なサラリーマン家庭においても遺産分割の仕方によっては相続税の申告が必要となるケースが増加するといわれています。
しかし、この場合でも小規模宅地の特例を上手に活用することにより、相続税額をゼロにすることが可能です。
それでは、同じ遺産の内容においても 相続税額がゼロとなるケース、相続税額が発生するケース、それぞれの相違点を下記の事例を基にご紹介いたします。
【前提条件】
・法定相続人3人(配偶者、長男、次男)
・相続財産7,000万円
(自宅土地4,500万円/200㎡、自宅建物500万円、預貯金2,000万円、借入金なし)
・自宅には被相続人及び配偶者が居住、長男・次男は別居(持ち家なし)
(事例1)相続税が発生するケース
長男が自宅土地及び建物を相続するが居住しない。次男は預金2,000万円を相続、配偶者は取得財産なし
(事例2)相続税額ゼロ(申告非課税)のケース
配偶者のみが自宅土地及び建物を相続し、居住。長男と次男は預金2,000万円を各1,000万円ずつ相続
(事例3) 配偶者が相続財産の全てを相続した場合
課税遺産総額1億6,000万円以内につき、相続税は発生しません。
これまでにご説明してきたように、小規模宅地の特例を適用するためにはいくつかの要件があります。そのため、適用要件を満たすための対策が重要となりますが、その対策の一つが遺産分割です。適用要件に合致した相続人が特例対象宅地を取得するよう遺産分割を行うことにより特例が適用され、結果として相続税額をゼロとすることができます。分割協議の方法によって納税額は大きく異なりますが、(事例2)(事例3)の方が有利に思える一方、二次相続を考慮した場合には結果的に(事例1)の方が有利になる、といった可能性も少なくありません。一次相続、二次相続それぞれの財産総額や納税予想額をシミュレーションし、トータルでの負担を考慮に入れた分割協議を行うことで、二次相続による相続人間のトラブルを未然に防ぐことが必要であると考えます。