平成29年7月第3号
営業利益に惑わされるな!~限界利益という視点~
FAS部門所属 シニアスタッフ 公認会計士 田中 信宏
前号までは主に財務会計についてお話してきましたが、今回は一息入れて、管理会計における「限界利益」について数値例を踏まえながら、ご紹介させていただきます。
<限界利益とは>
スーパー等の小売店を例として検討していきたいと思います。下記はプライベートブランド商品(PB商品、いわゆる自社商品)とナショナルブランド商品(NB商品、いわゆる他社商品)の売上及び利益について数値例を記載したものです。
上記の数値例を見ると、売上高、営業利益ともにPB商品よりもNB商品の方が大きいため、売上高及び営業利益の金額だけに着目してしまうと、NB商品が主力商品と判断し、優先的に販売しようと判断します。しかし、利益最大化のためには限界利益率の高いPB商品を優先すべきであり、意思決定を誤ってしまう可能性があるのです。こちらについて具体的に数値例を用いながら説明させていただきます。
上記の例では、PB商品が売上高300、営業利益90、NB商品が売上高1250、営業利益400となっており、NB商品の売上及び営業利益のシェアが圧倒的に高いため、事業の主軸商品はNB商品として認識され、力点はNB商品に置かれる可能性があります。しかし、限界利益率は、PB商品は70%、NB商品40%になっています。限界利益は売上高から変動費を控除した利益であり、売上の増減に応じて変動する利益であることから、売上がトレードオフ関係にある複数商品の優先順位をつける場合には、着目すべきは売上や営業利益ではなく、限界利益率により意思決定を行う必要があります。
尚、PB商品に力点を置いて、上記数値例の売上割合を逆転させた場合、下記のようになり、限界利益率の高いPB商品を増加させた結果、全体売上が同額の1,550でも営業利益は285増加することになります。実際事業を行う上ではマンパワー、販売先等の制約があることから売上高を増加させることは困難な場合が多く、営業利益を改善するには限界利益率の高い商品(又は事業)のシェアを拡大することが一つの有効な手段となります。
<執筆者紹介>
田中 信宏 シニアスタッフ(公認会計士)
大手監査法人で国内監査業務に従事した後、事業会社の税務部門にて、移転価格等の海外子会社における税務リスク管理業務に従事。その後、高野総合会計事務所に入所。現在はFAS部門にて企業再生、M&Aのデューデリジェンス業務、バリュエーション業務等に従事。