平成31年度 税制改正大綱
1.資産税
①個人事業主の事業用資産に係る納税猶予制度の創設
個人事業者の事業用資産について、10年間の時限立法措置として、相続税・贈与税の納税猶予及び免除の制度が創設されます。認定相続人等が相続等で特定事業用資産を取得し事業を継続していく場合には、特定事業用資産に対応する相続税・贈与税が猶予されます。なお、制度の基本的な内容は非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予を踏襲しておりますが、留意点は以下の通りです。
・被相続人等の事業(不動産貸付事業等を除く)の用に供されていた土地(400㎡を限度)、建物(床面
積800㎡を限度)及び減価償却資産(固定資産税、営業用として自動車税等の課税対象となってい
るものに限る)で、青色申告書に添付される貸借対照表に計上されているもの(特定事業用資産)
が対象となります。
・後継者が死亡の時までに特定事業用資産を保有しており、事業を継続した場合等一定の事由に
該当した場合には相続税・贈与税が免除されます。
・相続税の納税猶予については、小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等)との選択適用となります。
・認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成された承継計画を平成31年4月1日から
平成36年3月31日までの間に都道府県に提出する必要があります。
・平成31年1月1日から平成40年12月31日までの間に相続・贈与等により取得する財産に係る相続
税・贈与税について適用されます。
②小規模宅地等の見直し
特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等(その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合を除く)が除外されることとなりました(平成31年4月1日以後の相続等について適用されます。ただし同日前から事業の用に供されている宅地等については適用されません)。
③教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の見直し
・平成33年3月31日まで適用期限を2年間延長し、贈与年の前年の受贈者の合計所得金額が1,000
万円を超える場合には適用を受けることができないこととされました。
・教育資金の非課税措置については、贈与者が死亡した場合において、贈与者の死亡前3年以内に
その適用を受けているときは、贈与金額から教育資金支出額を控除した残額を、受贈者が贈与
者から相続等により取得したものとみなすこととされました(贈与者の死亡の日において受贈者
が23歳未満である場合等一定の場合を除きます)。
④民法の改正に伴う措置
平成30年7月に公布された民法等の改正に伴い、以下税制上所要の改正が行われました。
・相続税の未成年者控除適用対象者の年齢を、現行20歳未満から18歳未満に引き下げるなど民法
における成年年齢引下げを踏まえた改正が行われました(平成34年4月1日以後の相続、贈与等か
ら適用されます)。
・配偶者居住権の評価額が以下の通りとされました。
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の
法定利率による複利現価率
・特別寄与料の額が確定した場合には、特別寄与者は特別寄与料相当額を被相続人から遺贈によ
り取得したものとみなして相続税が課税されます。なお、相続人が支払うべき特別寄与料の額は、
その相続人に係る相続税の課税価格から控除されます。
2.所得税
①住宅ローン控除適用期間の3年延長
消費税の税率10%が適用される住宅の取得等をして、平成31年10月1日から平成32年12月31日までの間に居住の用に供した場合には、住宅ローン控除の適用期間を現行10年から13年に延長することとされました。なお、適用年の11年目から13年目までの各年の控除額については、以下のいずれか少ない金額とされています(例:一般住宅の場合)。
・住宅借入金等の年末残高(注)×1%
・(住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる
消費税額等)(注)×2%÷3 (注)4,000万円を限度
②空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の拡充
適用期限が平成35年3月31日まで4年間延長されるとともに、老人ホーム等に入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋及びその敷地の用に供されていた土地等は次の要件等を満たした場合には、本特例を適用することができることとなりました(平成31年4月1日以後の譲渡について適用されます)。
・被相続人が介護保険法に規定する要介護認定等を受け、かつ、相続開始直前まで老人ホーム等
に入所していたこと。
・被相続人が老人ホーム等に入所した時から相続開始直前まで、その家屋についてその者による
一定の使用がなされ、かつ、事業・貸付の用又はその者以外の者の居住の用に供されていたこ
とがないこと。
③確定申告書の記載事項の見直し
確定申告書の所得控除額が年末調整で適用を受けた額から異動がない場合には、その合計額のみの記載とすることができることとされました(平成31年分の確定申告から適用されます)。
④NISAの利便性向上
改正前のNISA口座は、居住者等が海外転勤等により一時的に出国する場合、NISA口座から特定口座等へ移管する必要がありましたが、居住者等がその出国の日の前日までに「継続適用届出書」を提出することで、その出国時から一定の日までの間は居住者等に該当する者とみなして引き続きNISA口座を利用できるようになるなど利便性向上の措置が講じられました。
⑤仮想通貨の取得費の計算方法の明確化
個人が仮想通貨を売却した場合、取得費の計算方法は、移動平均法又は総平均法とすることが法令上明確化されました。
⑥ふるさと納税の見直し
過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような自治体については、ふるさと納税の対象外にすることができるよう、返礼品の返礼割合を3割以下とすること、返礼品を地場産品とすることなど、個人住民税における都道府県・市区町村に対する寄付金に係る寄付金税額控除について見直しが行われます(平成31年6月1日以後に支出された寄付金について適用されます)。
3.法人税
①研究開発税制の見直し(Aを除き、所得税も同様)
試験研究を行った場合の税額控除制度について、次の見直しがされます。
A.試験研究費の総額に係る税額控除制度
a税額控除率の見直し
増減試験研究費割合が8%超の場合(上限10%)
9.9%+(増減試験研究費割合-8%)×0.3
増減試験研究費割合が8%以下の場合(下限6%)
9.9%-(8%-増減試験研究費割合)×0.175
b 研究開発を行う一定のベンチャー企業の税額控除の上限引き上げ
現行当期の法人税額の40%(現行:25%)
B.試験研究費の額が平均売上の10%超の場合の試験研究費の総額に係る税額控除制度
控除税額の上限の上乗せ特例が改組され、適用期限が2年延長されます。なお、上乗せ特例の改組に伴い、平均売上金額の10%を超える試験研究費に係る税額控除制度が廃止されます。
a控除税額の上限(現行と同じ)
控除税額の上限(当期の法人税額の25%または45%)に、当期の法人税額に試験研究費割合
から10%を控除した割合を2倍した割合(上限10%)を乗じて計算した金額を上乗せする。
b.税額控除率
上記A.aにより算出した率に、その算出した率に控除割増率を乗じて計算した率を加算した率
とする。
C.試験研究費の総額に係る税額控除制度の税額控除率の特例の適用延長
上記A.a及びB.bの上限を14%(原則10%)とする特例の適用期限が2年延長されます。
D.中小企業技術基盤強化税制
増減試験研究費割合が8%(現行:5%)を超える場合の特例に見直しの上、適用期限が2年延長されます。また、上記B.bと同様の税額控除率の割り増し措置が講じられます。
E.特別試験研究費の額に係る税額控除制度
対象となる特別試験研究費の額に、一定の要件を満たす企業間の委託研究に要する費用や、特定用途医薬品に関する試験研究が加えられ、その税額控除率は20%とされます。なお、一定の研究開発型ベンチャー企業との共同研究や委託研究の税額控除率は25%とされます。また、控除税額の上限が当期の法人税額の10%(現行:5%)に引き上げられます。
②中堅・中小・小規模事業者の支援
A.適用が延長される制度
・中小企業等の法人税の軽減税率の特例の適用期限が2年延長されます。
・中小企業投資促進税制の適用期限が2年延長されます。
・中小企業経営強化税制について、特定経営力向上設備等の範囲の明確化等を行ったうえで、
適用期限が2年延長されます。(所得税も同様)
・特定中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額控除制度について、一
定の適用要件を加えたうえで、適用期限が2年延長されます。(所得税も同様)
B.特定事業継続力強化設備等の特別償却
中小企業等経営強化法の改正を前提に、青色申告書を提出する中小企業者のうち同法の計画の認定を受けたものが、同法の改正法の施行の日から平成33年3月31日までの間に、認定に係る設備等を取得等をして、事業の用に供した場合には、取得価額の20%の特別償却ができることとされます。
C.みなし大企業の範囲の見直し
みなし大企業の判定において、大規模法人に次の法人を加えるとともに、その判定対象となる法人の発行済株式又は出資からその有する自己株式又は出資は除外されます。
a 大法人(※)の100%子法人
b 100%グループ内の複数大法人に発行済株式又は出資の全部を保有されている法人
※大法人とは、資本金の額もしくは出資金の額が5億円以上である法人等をいいます。
③地方税
平成31年10月1日以後に開始する事業年度から、法人事業税(所得割及び収入割に限ります。)の税率が改正され、法人事業税(所得割及び収入割)の納税義務者に対して国税として課される、特別法人事業税(仮称)が創設されます。
④その他
・法人税における仮想通貨の評価方法等について、時価法を導入する等の措置が講じられます。
・法人設立届出書について、定款等の写し以外の書類の添付が不要となります。
4.組織再編税制
・株式交換等の後に株式交換等完全親法人を被合併法人とし、株式交換等完全子法人を合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その株式交換等に係る適格要件のうち完全支配関係継続要件、支配関係継続要件及び親子関係継続要件について、その適格合併の直前の時までの関係により判定することとなります。
・合併、分割及び株式交換に係る適格要件並びに被合併法人等の株主における旧株の譲渡損益の計上を繰り延べる要件のうち、対価に関する要件について、対象となる合併親法人等の親法人の株式に合併法人等の発行済株式の全部を間接に保有する法人の株式が加えられます。(旧株の譲渡損益の繰延要件は、所得税についても同様です。)
5.国際課税
①過大支払利子税制の見直し
A.対象となる純支払利子等の額
その事業年度における対象支払利子等の額の合計額から、これに対応するものして計算した受取利子等の合計額を控除した残 額が、過大支払利子税制の対象とされます。
B.対象外支払利子等の額
「対象支払利子等の額」について、支払利子等を受ける者において日本の課税所得に含まれる支払利子等の額とするなど、対象外となる金額が定められます。
C.調整所得金額
調整所得金額の計算上、当期の所得金額に加算する金額から受取配当等の益金不算入額及び外国子会社配当等の益金不算入額を除外し、当期の所得金額から減算する金額から法人税額から控除する所得税額の損金不算入額を除外するなどの措置が講じられます。
その事業年度における対象純支払利子等の額が調整所得金額の20%(現行:50%)を超える場合は、その超える金額に相当する金額は、損金の額に算入しないこととされます。
E.適用免除基準
その事業年度における対象純支払利子等の額が2,000万円以下(現行:1,000万円以下)である場合など、一定の場合に該当する場合は過大支払利子税制を適用しないこととされます。
F.超過利子額の損金算入
その事業年度における対象純支払利子等の額が調整所得金額の20% (現行:50%)に満たない場合において、過去過大支払利子税制により損金不算入とされた金額のうち、超過利子額に相当する一定の金額が損金の額に算入されます。
G.適用時期
平成32年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
②移転価格税制の見直し
OECD移転価格ガイドライン等を踏まえ、移転価格税制の対象となる無形資産の明確化、独立企業間価格の算定方法の整備、評価困難な無形資産に係る取引に係る価格調整措置の導入といった見直しが行われます。また、移転価格税制に係る法人税の更正期間及び更正の請求期間等が7年(現行:6年)に延長されます。 なお、これらの改正は平成32年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。
③外国子会社合算税制の見直し
A.特定外国関係会社
ペーパーカンパニーの範囲から除外される外国関係会社などについて見直しがされます。
B.対象外国関係会社
保険業を主たる事業とする外国関係会社の非関連者基準の判定について一定の措置が講じられます。
C.会社単位の合算課税制度における適用対象額
現地法令基準を用いて適用対象額を計算する場合の基準所得金額の計算について見直しがされます。
D.適用免除基準における租税負担割合
租税負担割合が30%以上の特定外国関係会社は合算税制の適用が免除されますが、この租税負担割合を算出する際の、所得の金額及び外国法人税額について見直しがされます。
E.部分合算課税制度における部分適用対象金額
部分対象外国関係会社に係る部分合算課税の対象となる特定所得金額の見直しがされます。
F.二重課税調整
外国関係会社が連結納税等を適用している場合や、外国子会社からの配当等の二重課税調整について見直しがされます。
G.適用時期
改正項目により適用時期が異なるものもありますが、内国法人の平成31年4月1日以後に終了する事業年度の合算課税について適用されます。