平成31年3月 第3号
コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑥
FAS部門所属 シニア 公認会計士 藤田 祐紀
コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した6回目の今回は、前回(平成31年2月第3号)に引き続き、第1回の平成30年10月第3号TSKNEWSでご紹介したタイプB(健全性は高いものの親族内後継者がいない会社)に着目します。
タイプBは、親族外の役員・従業員へ承継するケースと、第三者へ売却するケースに分けられますが、今回は、第三者へ売却(=M&A)するケースをご紹介します。
【M&Aによる会社株式の第三者への売却】
M&Aによって会社株式を第三者へ売却するケースは、「会社を売る」事である為、心理的な抵抗感がある、株式売却後のキャッシュフローが得られなくなる、買手が付かなければ成立しない、などの特徴がある一方、一般的に親族内承継と比べて下記のようなメリットがあると言われています。
【親族内承継と比べたM&Aのメリット】
①現経営者は株式の売却資金を得る事ができる
事業承継の場合、後継者は「会社」は引き継ぐ(=以降のキャッシュフローを得られる)ものの、承継時点では得られる資金はありません。それどころか、承継にあたって時価相当額に対する贈与税(現経営者が急逝の場合は相続税のことも)を支払う必要があり、納税資金の確保が必要となります。
その一方M&Aであれば、株式の売却代金から税金(売却益に係る所得税)を差し引いた分を現経営者が得る事となりますので、承継(売却)時点での納税資金の確保は不要となります。
さらに、株式売却後、相続発生までに節税対策(生前贈与や不動産の購入による相続財産の引き下げ、非課税財産の購入など)を実施する事で、相続税を抑えられる可能性も考えられます。
②個人保証を外す(承継しない)事ができる
通常、中小企業のオーナー社長は、会社の借入に対して個人保証を行っているケースが多いと思います。
金融機関のプロパー融資はもちろん、信用保証協会等が介在する公的な融資に対しても同様に個人保証を行うケースが大半だと思います。
事業承継の場合は後継者がこれら個人保証を引き継ぐ事が一般的ですが、M&Aによって株式が譲渡された場合、買手は会社の全財産を引き継ぐ事となる為、個人保証は外れる事となります(自宅や個人所有財産を担保に差し入れていた場合はこれらの抵当権も外れる事となります)。
前回のTSK NEWS (平成31年2月第3号)で述べた通り、個人保証を引き継ぐことは、後継者の事業承継意欲を阻害する一因と言われており、M&Aではこの個人保証の問題をクリアする事ができると考えられます。
M&Aのメリットについて上記の様に述べて参りましたが、事業承継のうちどの方法が最適かは、現経営者の会社売却後のライフプラン、後継者の有無、買手企業の有無等によって変わってきますので、弊事務所の経験豊富な公認会計士・税理士にお気軽にご相談ください。
<執筆者紹介>
FAS部門所属 公認会計士 シニア 藤田 祐紀
大手監査法人で主に金融機関監査業務に従事した後、髙野総合会計事務所に入所。
中小企業再生支援協議会への出向で、企業再生局面での金融機関の調整現場も経験。
現在はFAS部門にて企業再生、M&A等のデューデリジェンス業務等に従事。