令和元年7月 第1号
連結納税制度見直しの動向について
TAX部門所属 シニアマネージャー 公認会計士・税理士 石橋 知憲
現在、政府税制調査会の連結納税制度に関する専門家会合において連結納税制度の抜本的な見直しが議論されています。専門家会合での討議内容は、来年の税制改正にも影響を与えうることから、これまでの議論の動向をご紹介します。
1.専門家会合の開催
連結納税制度に関する専門家会合は、本年6月26日までに4回にわたり開催されており、現行の連結納税制度の課題や新たな制度の在り方について議論がなされています。その中で、以下の通り、仮に変更が行われた場合に実務に大きな影響を与えうる提案も行われています。
2.事務負担の軽減化を図るための制度の簡素化
●個別申告方式の導入
現行の連結納税制度の下では、連結グループ全体を一つの納税単位として、親会社が法人税の申告・納付を行います。新制度では、各法人それぞれを納税単位とする個別申告方式とすることが提案されています。
●修正や更正の場合の事務負担の軽減
現行制度では、連結納税グループの一部の法人で修正・更正が行われた場合、その影響が連結納税グループの全法人に及ぶため、事務負担が大きいという問題がありました。専門家会合では、基本的に計算誤りがあった企業のみ修正・更正を行うこととしつつ、不当な租税回避への対処方法が議論されています。
3.時価評価課税および欠損金の持込制限の見直し
●組織再編税制との整合性
組織再編税制と整合性のある取扱いとなるよう、開始・加入時に時価評価課税の対象とならない子法人の範囲に、適格組織再編と同様の要件が認められる法人を加えるとともに、時価評価課税の対象とならない場合でも、支配関係が5年以内で、かつ共同事業性がない場合には、欠損金の一部利用制限等を課すことが提案されています。
●親法人の欠損金の制限
現行制度では、子法人と異なり親法人の連結納税開始前の欠損金は制限なく控除可能とされています。これを、欠損金の持込が可能な子法人と同様の制限を課し、親法人の所得の範囲内でのみ控除可能とする見直しが提案されています(親法人へのSRLYルールの導入)。
4.グループ調整計算の見直し
現行制度下では、研究開発税制や外国税額控除等の一部項目においてグループ全体での調整計算をしています。これについて、調整計算をやめることによる事務負担の軽減効果と、制度趣旨、制度の乱用可能性等の観点での調整計算の必要性を比較した上で、見直すことが提案されています。
5.移行期間
適用開始まで1~2年程度の移行期間を設け、現在連結納税を適用している法人や現在連結納税の導入準備をしている法人が不利益を被らないよう手当てすることが提案されています。
6.今後の動向
今回の連結納税制度の見直しは、平成14年の制度創設以来の抜本的な改正となることが見込まれており、その影響も大きいことから、今後の動向に引き続き注目してゆくことが求められます。
<執筆者紹介>
TAX部門 所属
シニアマネージャー/公認会計士・税理士 石橋 知憲
主に、大企業グループおよび中堅企業、外資系企業に対する決算業務、税務申告業務、税務相談等に従事。
Column
2015 年9 月の国連開発サミットにおいて「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」として2030 年を期限とする17 の目標と169 のターゲットが掲げられ、日本でも持続可能な社会の構築に向けた取組が急速に広がりつつありますが、日本公認会計士協会からも2019 年6月に中間報告として「持続可能な社会構築に向けた公認会計士の貢献」が公表されました。その中で、未来の社会のあるべき姿を実現するには、高度に複雑化・専門化した課題に対して、多面的な観点から最適化を目指す問題解決能力が必要であり、あらゆる組織や施策に専門家は必要不可欠ですが、監査は元より、IPO支援、コンサルティング、税務など様々な形で社会インフラに貢献すること、高い倫理観を持って情報に信頼を付与する必要性は高まること、テクノロジーの活用に積極的に取り組むこと等を通じて、「持続・発展可能な社会を共に築くプロフェッショナルパートナー」を目指すべきとの提言がされています。
私共、高野総合会計事務所も、税理士、会計士が連携してより幅広い知識と経験を活かし、社会への発信、外部との積極的な交流、自らのイノベーション(意識改革)を進めていくことにより、その一端を担って参ります。