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令和2年12月第2号

民事(家族)信託における税務上の取り扱い

個人資産部門 古賀 友理

長寿化・高齢化が進む我が国では、認知症患者数は増え続けており、厚生労働省の推計によると令和7(2025)年には675万~730万人に上り、65歳以上の高齢者の約5人に1人が発症するといわれています。認知症発症による資産凍結回避や遺言の機能がある民事(家族)信託は、相続対策として近年需要が増えつつあります。そこで、今回は民事(家族)信託の税務上の取り扱いに焦点を当てて説明いたします。

民事(家族)信託とは

民事(家族)信託とは、財産の所有者(委託者)が、認知症等により判断能力が低下する前に、財産の管理や処分を信頼できる家族など(受託者)に託す契約であり、財産管理の一手法です。信託した財産は委託者の財産のままであり、信託財産から得られる利益は受益者のものとなります。信託目的に沿っていれば受託者の判断で信託財産の売却や資産運用が可能であり、成年後見制度と比べ自由かつ柔軟な財産管理ができることが特徴です。なお、以下では、民事(家族)信託で多いケースである契約当事者が個人の場合の課税関係について時系列で説明いたします。

(1)信託契約締結時の課税

民事(家族)信託では、「自益信託」という委託者受益者を同一の者に設定すること一般的ですが、その場合、課税は生じません。これに対し、委託者受益者が異なる「他益信託」の場合は、委託者から受益者へ信託財産が移転されたとみなされるため、適正な対価の授受がない場合は、受益者に対し贈与税、適正な対価の授受がある場合は、委託者に譲渡所得税が課税されます。

また、受託者においては信託財産が不動産の場合、信託の登記を行う必要があり、登録免許税が生じます。固定資産税については実質的所有者である受益者が負担する契約内容となっていることが一般的です。

(2)信託契約期間中の課税

信託財産から生じた収益・費用については受益者に帰属され、受益者に所得税が課税されます。ここで、信託不動産から生じた所得損失はなかったものとみなされるため、他の所得との通算(損益通算)ができません。受益者に固有不動産や事業による所得もある場合は、確定申告の際に注意が必要です。

また、受益者を変更する場合は、他益信託と同様に適正対価の有無に応じて新受益者に贈与税(受益者の死亡に起因する変更の場合は相続税)もしくは旧受益者に譲渡所得税の課税が生じます。(不動産の場合は登録免許税も)

(3)信託契約終了時の課税

信託契約が終了すると、信託の残余財産は契約時に設定した帰属権利者に移転します。受益者と帰属権利者が同じ場合、課税は生じません。一方、受益者と帰属権利者が異なる場合は、適正対価の有無に応じて帰属権利者に贈与税(受益者の死亡に起因する信託の終了の場合は相続税)もしくは受益者に譲渡所得税の課税が生じます。そして、不動産の場合は原則として登録免許税のほか、不動産取得税が課税されます。(信託締結時より自益信託である場合において委託者受益者)が帰属権利者となる場合はどちらも非課税、委託者受益者)の相続人が帰属権利者になる場合は不動産取得税は非課税。)

課税の範囲

(注)太字は信託財産が不動産の場合のみ

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<執筆者紹介>

個人資産部門 古賀 友理
相続税申告のほか、相続対策や事業承継など、個人資産税業務に従事しています。