会社役員賠償責任保険の税務上の取扱いについて
法人部門 税理士 蛯名 慶
1. 会社法改正の経緯
D&O保険制度自体は改正前より、上場企業を中心に普及しておりました。しかし、株主代表訴訟に対する損害賠償金や弁護士費用などの補償を内容とする部分の保険料を会社が負担することについて、利益相反との指摘がありました。そのため、株主代表訴訟担保部分の保険料を特約として役員個人が負担することが一般化されていました。これを踏まえて、平成27年に経済産業省の研究会より、一定の手続きを経た場合には、株主代表訴訟担保特約の保険料についても、会社法上適法に負担できるとの解釈が報告書にて示されました。 その後においても、D&O保険の取扱いについて、法解釈上不明瞭な部分も依然として存在していました。そこで、令和元年の改正会社法により、株主代表訴訟担保特約の保険の規制や契約に際する株主総会の決議などの手続きについて、法令上において明文化されました。
2.税務上の取扱い
D&O保険の保険料のうち、株主代表訴訟担保特約の保険料を会社が負担した場合の役員に対する給与課税の取扱いについて、会社法改正前より国税庁から取扱いが公表されておりました。令和元年の改正会社法を受けて、改正会社法施行後の税務上の取扱いについても、国税庁から公表されております。
ー改正前ー
下記(①及び②)の手続きを行い、会社法上適法に負担した場合は給与課税は行わない。それ以外の場合は、給与課税を行う。
ー改正後ー
改正会社法の規定(株主総会の決議、取締役会設置会社については取締役会の決議)に基づいて負担した場合には、給与課税は行わない。改正会社法の規定に基づかない場合は、給与課税を行う。
執筆者紹介
法人部門 税理士 蛯名 慶
個人の会計事務所に勤務した後、税理士法人髙野総合会計事務所に入所。上場企業の関係会社及び中小企業を中心に決算業務、申告書の作成、税務相談業務のほか、公益法人等に関する申告業務等にも従事。
Column
「非財務情報の開示の充実」について
ここ数年にかけて、上場会社を中心に、決算数値など財務情報以外の「非財務情報」の開示の充実が図られています。主なものとして、役員報酬の決定方針、コーポレートガバナンスの状況、重要な経営上の課題などが挙げられます。これまで企業の価値評価は、発表されている財務数値を中心として、将来の見込みなどを加味して数値化されてきました。今後は、こうした財務数値に加えて、上記の様な数値以外の様々な情報も価値評価の要素に加えられる可能性があります。ESG投資に代表されるように投資する側も投資先の企業の収益性に加え、会社としてどのようなストーリーも持って経営するかに重きをおいています。最近ではさらに企業税務の透明性を求め、過度な節税策を取る会社は投資先から除外する動きも出てきているようです。