事業承継税制の改正とおさらい
個人資産部門 阿久津 貴典
1. 改正内容
物価高騰やコロナウイルスによる影響で事業承継の検討が遅れている現状を踏まえ、事業承継税制の適用要件である特例承継計画の提出期限を延長することで、事業承継税制の適用を受けやすくしています。ただし、事業承継税制自体の適用期限に改正はなく、国はあくまで早めの事業承継を求めていると見ることができます。
2. 事業承継税制はどのような場合に適用を受けたらよいか
内部留保の厚い老舗の非上場会社などの株式は、相続税評価額が高めに算定されますが、非上場のため株式に換金性がありません。そのため、非上場株式の相続は、株式を換金できないにも関わらず莫大な相続税を納税することにもなりかねません。そこで、事業承継税制は、先代経営者から後継者への非上場株の承継に伴う相続税・贈与税の納税を猶予することとしています。オーナー経営者の遺産について、非上場株式の評価額が高いものの、金融資産があまりなく、相続税の納税資金が足りない場合に、事業承継税制の適用を検討することとなります。
3. 事業承継税制は節税になるか
事業承継税制により相続税の納税猶予を受けた場合、非上場株式を承継した後継者の相続時点で、納税猶予されていた相続税は免除されます。よく事業承継税制は納税が猶予されるだけで節税にはならないという声を聞きますが、事業承継税制の適用を受けることにより、後継者の相続時点で、非上場株式に係る相続税1回分、得をする可能性があります(事業承継税制の適用を受けた先代経営者の相続開始から後継者の相続開始まで、通常長い年月はかかりますが) 。
4. 事業承継税制のリスク
事業承継税制は、適用を受けたらそこで終わりではなく、打ち切り事由に該当すると、納税猶予されていた相続税・贈与税を利子税と合わせて納税しなければなりません。例えば、納税猶予を受けている非上場株式を譲渡した場合が打ち切り事由とされており、特にM&Aの話が舞い込んだ場合などは注意が必要となります。また、事業承継税制は、多くの適用要件を検討する必要があり、適用を受けた後の定期的な書類の提出、打ち切り事由への配慮など、税理士のフォローやモニタリングが必要となるため、専門家報酬が高額になります。そのため、ある程度、納税猶予額が大きくないと、費用対効果が見込めない場合があります。
執筆者紹介
個人資産部門 阿久津 貴典
相続税申告の他、相続対策や事業承継等個人資産税業務を中心に、中小企業の決算業務、法人税申告業務、税務相談業務にも従事しています。